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東京地方裁判所 昭和51年(行ウ)177号 判決 1979年3月28日

東京都文京区本駒込四丁目三七番六号

原告

日本地建株式会社

右代表者代表取締役

小杉栄次

右訴訟代理人弁護士

伊賀満

東京都文京区本郷四丁目一五番一一号

被告

本郷税務署長 榊成美

右指定代理人

金沢正公

鳥居康弘

渡辺昭寿

須田光信

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  原告

被告が昭和四九年一二月二七日付でした原告の昭和四七年四月一日から昭和四八年三月三一日までの事業年度の法人税についての更正処分及び無申告加算税賦課決定のうち所得金額一億五六六三万〇八八四円として計算した額を超える部分を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二原告の請求原因

一  原告は、不動産の売買及び仲介業を営む法人であるが、その昭和四七年四月一日から昭和四八年三月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、次表確定申告欄及び修正申告欄記載のとおり申告をしたところ、被告から同表更正欄記載のとおり更正処分及び無申告加算税賦課決定(以下一括して「本件課税処分」という。)を受けたので、異議手続を経て審査請求をしたが棄却された。

二  しかし、本件課税処分は、所得金額の計算上売上原価に算入すべき借地権の取得費九四七五万四五〇一円を損金として認めなかった点において違法があるので、前記の限度でその取消しを求める。

第三原告の請求原因に対する認否

原告の請求原因一は認めるが、同二の主張は争う。

第四被告の主張

一  原告は、本件事業年度内である昭和四七年四月一日兼松江商株式会社(以下「兼松江商」という。)に東京都板橋区上板橋一丁目四八一八番一号宅地一五八四・八四坪(以下「本件土地」という。)を代金七億一三一七万八〇〇〇円で売却したが、これに関連して、本件土地の北側に隣接する土地一五二坪上にあった第三者の借地権及び地上建物三棟を原告が自己の費用で買収してこれを本件土地のための道路用地として兼松江商に譲渡することも本件土地の売買と一体となって契約の内容をなしていたものであるとして、本件事業年度内に原告が右第三者の借地権付建物三棟のうち二棟を買収するのに要した九四七五万四五〇一円を同年度の売上原価に計上していた(ただし、右買収物件の兼松江商に対する引渡しは同年度中には行われていない。)。

二  しかしながら、本件土地の売買契約書の記載や兼松江商側の取扱い、また、原告が兼松江商に対し前記借地権付建物を本件土地の売買代金とは別に一億円余で買い取ってもらいたいと請求したこと、兼松江商が本件土地の引渡しを受けただけで原告に約定の売買代金七億一三一七万八〇〇〇円を支払ったことなどからみて、兼松江商に対する本件土地の売却と右借地権付建物の譲渡とは全く別個の取引として行われることになっていたものというべきである。それゆえ、前記借地権付建物の買収費九四七五万四五〇一円は、原告の棚卸資産に計上されるべきものであって、本件土地の売上原価と認めることはできない。

したがって、右九四七五万四五〇一円を否認して、原告の修正申告した所得額一億五六六三万〇八八四円に加算すると、二億五一三八万五三八五円となる。

三  原告は、法定申告期限内に本件事業年度分の確定申告書を提出しなかったので、無申告加算税の賦課を免れない。

四  よって、本件課税処分に原告主張の違法はない。

第五被告の主張に対する認否

被告の主張一の事実及び同三のうち原告が法定申告期限内に本件事業年度分の確定申告書を提出しなかった事実は認めるが、同二は争う。

第六原告の反論

原告が前記借地権付建物を買収してこれを兼松江商に譲渡することは、本件売買契約の一内容をなすものである。すなわち、本件土地から上板橋駅に通じる通路としては幅員一・八メートルの道路しかなく、このままでは本件土地の使用価値、交換価値の増加が見込まれなかったので、兼松江商は、本件土地に加えて道路用地として前記借地権(地上建物を含む。)をも確保することを切望した。そこで、本件土地と右借地権付建物とが一括して売買契約の対象とされ、両者を含めた代金として七億一三一七万八〇〇〇円と定められた。

もつとも、本件の売買契約書には、借地権付建物の価格については、原告と兼松江商とが将来協議したうえで定めるかのごとき記載があるが、これは、借地権付建物の買収に対して予想外の経費がかかる場合のあることを慮って、その場合には兼松江商から原告に若干の見舞金が交付されることもある旨を定めたものにすぎず、本件土地の売買と借地権付建物の売買とが全く別個のものであるとの根拠となるものではない。現に原告と兼松江商との間で昭和五一年一〇月二五日に本件土地の売買と借地権付建物の売買とが一体をなすものであることが文書により確認されている。また、原告が兼松江商に借地権付建物二棟を一億円余で買い取ってもらいたいと請求したのは、前記売買代金七億一三一七万八〇〇〇円に右借地権付建物の価格が含まれていなかったからではなく、その当時資金難であった原告が兼松江商に対し借地権付建物の代金を口実として資金の融通を懇願したにすぎない。

第七証拠

一  原告

1  甲第一ないし第七号証、第八号証の一ないし三

2  証人高橋東二、同川口和昭の各証言、原告代表者小杉栄次本人尋問の結果

3  乙号各証の成立(第一一、第一二号証については原本の存在並びに成立)は認める。

二  被告

1  乙第二号証、第三ないし第五号証の各一、二、第六号証の一ないし三、第七ないし第一二号証(第一号証は欠番)

2  証人古田幸三郎の証言

3  甲第一、第二号証の成立、第八号証の一ないし三の原本の存在並びに成立は認めるが、その余の甲号各証の成立は不知。

理由

一  請求原因一の事実並びに原告が本件事業年度内に兼松江商に本件土地を売却し、かつ、その北側隣接地一五二坪について同地上にある借地権付建物三棟のうち二棟を九四七五万四五〇一円で買収したこと、原告が右九四七五万四五〇一円を本件土地の売上原価として同年度の損金に算入したことは、当事者間に争いがない。

二  そこで、右借地権付建物の買収費九四七五万四五〇一円を原告の本件事業年度における売上原価とみることができるかどうかについて判断する。

成立に争いのない甲第一号証、第二号証、乙第二号証、第三ないし第五号証の各一、二、第六号証の一、第八ないし第一〇号証、原本の存在並びに成立に争いのない甲第八号証の一(後記措信しない部分を除く。)及び二、乙第一一号証(後記措信しない部分を除く。)、第一二号証に証人高橋東二、同川口和昭の各証言(いずれも後記措信しない部分を除く。)並びに原告代表者本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)を総合すると、次の1ないし5の事実が認められる。

1  兼松江商は、近い将来に本件土地を含む上板橋駅南口一帯を対象とした市街地再開発事業が施行される予定であることを知り、右事業による地価の増加分を転売によって利得しようと計画し、昭和四七年四月一日原告からその所有の本件土地を買い受けた(右買受けは当事者間に争いがない。)が、その際、本件土地から上板橋駅に至るには幅員約四・五メートルの狭隘な道路しかなく、このままでは本件土地の交換価値の増加が十分ではないと見込まれたので、上板橋駅に通じる道路を建設するため、本件土地と駅側出入口において隣接する宗教法人安養院所有の土地一五二坪を確保することを要求した。そして、原告もこれを承諾したが、当時、右安養院所有地は、アール洋裁学院ほか二名が賃借し、地上に建物三棟を所有していたので、右土地の権利及び地上建物(以下これらを一括して「本件係争物件」という。)を原告が買収して兼松江商に譲渡することと定められた。

2  本件の売買契約書(甲第一号証)には、第一条として、「甲(原告)は末尾記載の甲所有に係る不動産(以下本物件という)を次条以下の約定にて乙(兼松江商)に売渡し、乙はこれを買受けた。」と記載されており、これを受けて、末尾には「不動産の表示」と題して本件土地のみが表示され、本件係争物件は記載されていない。そして、第二条には、「本物件の売買代金は金七億一三一七万八〇〇〇円也とし、、、、、、」と定められ、また、第八条には、「甲は本物件入口(駅出入口に面したる所)の三軒の家屋買収に関しては責任を以って速かに買取り乙に引渡さなければならない。但価格等に関しては甲・乙協議決定のこと。」と定められている。

3  右の売買代金七億一三一七万八〇〇〇円は、坪当たりの単価を四五万円と定め、これに本件土地のみの実測面積一五八四・八四坪を乗じて決定されたものである。

4  また、右売買代金は、契約と同時に二億一三九五万三四〇〇円、昭和四七年四月二八日に残額四億九九二二万四六〇〇円を支払うものと定められ(前記契約書第八条)、右代金完済と同時に原告が売買物件(前記第一条にいう「本物件」)を瑕疵のない状態において兼松江商に引き渡すこととされていた(同第四条)が、兼松江商は、右代金として、昭和四七年四月半ばころに二億一三九五万三四〇〇円を支払い、同月二八日ころに原告から本件土地の引渡しを受けただけでこれと引換えに残金四億九九二二万四六〇〇円を支払っており、本件係争物件の引渡しは受けなかった。

5  原告は、本件係争物件の買収交渉に当たったが、土地については所有者である安養院の同意が得られず、地上の借地人所有の建物についても、三棟のうち二棟とその分の借地権だけを九四七五万四五〇一円で取得することができたにとどまった(右取得の事実は当事者間に争いがない。)。そこで、原告は、右建物及び借地権の買収費用は前記売買代金額に含まれていないものであるとの前提に立って、昭和四八年三月六日及び同月一〇日の二回にわたり、兼松江商に対し右建物及び借地権買収費用等として、あらかじめ同日付の領収書(乙第三、第四号証の各二)を準備したうえで一億〇二四五万円の支払いを請求したが拒絶された。

以上の事実によれば、前記甲第一号証による売買契約は本件土地のみを対象とした売買であって、その売買代金七億一三一七万八〇〇〇円には本件係争物件の代金は含まれておらず、本件係争物件については、原告が道路建設の可能な状態でこれを確保した段階において改めて別途に売買契約を締結することになっていたものであると推認することが相当である。

甲第三号証(確認書)には、本件係争物件の譲渡は本件土地の売買と一体をなすものであって、売買代金七億一三一七万八〇〇〇円には右物件の対価も含まれている旨の記載があるが、証人高橋東二、同川口和昭の各証言、原告代表者本人尋問の結果によれば、同号証は、原告が本件事業年度の法人税につき税務当局から調査を受け本件売買契約書(甲第一号証)第八条の趣旨が不明瞭であると指摘されたことから、本件争訟を自己に有利に進めるために原告の依頼によって作成されたものであることが認められるから、これをたやすく採用することはできない。また、兼松江商の商品有高仕掛品台帳明細表の写しとして提出された甲第八号証の三には、本件土地の欄に「土地代(借地含む)」として代金額七億一三一七万八〇〇〇円が計上され、あたかも右代金には本件係争物件に関する対価も含まれているかのごとき記載があるが、同号証を前掲乙第一〇号証添付の別紙6と対照すると、右写しの「土地代(借地含む)」との記載は当初の台帳原本にはなく、後日書き加えられたものであることが窺われるのであり、前記甲第三号証の作成経緯などをも併せ考慮すると、右甲第八号証の三をもって前示認定を覆すに足る証拠ということはできない。その他、前記甲第八号証の一、乙第一一号証、証人高橋東二、同川口和昭の各証言、原告代表者本人尋問の結果中、前示認定事実に反する供述部分はにわかに措信しがたく、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

してみると、原告の本件係争物件の買収費は、本件土地の譲渡による所得金額の計算上売上原価に算入すべき取得費とはいえないから、これを本件事業年度の損金とみることはできない。

この点に関する原告の主張は失当である。

三  原告が法定申告期限内に本件事業年度分の確定申告書を提出しなかったことは当事者間に争いがない。それゆえ、原告は無申告加算税の賦課を免れない。

四  右の次第で、本件課税処分に原告主張の違法はない。

よって、原告の本訴請求は理由がないものとしてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 川崎和夫 裁判官 菊池洋一)

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